俺が小学生の時、某書店が中学受験向けの模擬テスト(業者テスト)を運営していました。
その業者テストは実際の私立中学を会場に借りて行われていました。
ただ、その業者テストには、ある種の欠陥がありました。
その業者テストは、午前と午後に分けて行われます。
午前と午後に分れるのはテスト問題ではなく、受験生の子たちです。
ちょっと信じ難いかもしれませんけど、午前に完了したのと同じ内容のテストを、午後にも実施していました。
午後のテストを受験するのは、午前のテストとは全く関係のない、別の小学生たちです。
業者テストの実施主体は塾等ではなく各家庭(個人)であり、受験生たちは自由に行動していました。
しかも、小学生と雖も高学年になれば、親の車以外の交通手段で、テストを受けに来る子が少なくありません。
午前のテストが終わった時、自己採点用なのか単に学習教材としてのサービスなのか。
テストの問題冊子も、その解答例の冊子も、教室内で受験生たちに配布されていました。
これで不正をしないヤツが居ないわけありません。
俺が初めて目撃した不正の例は、見ず知らずの男の子の二人組が、解答例の冊子を見てる光景でした。
片方の男の子が、その相方と思しき別の男の子に、千円札を渡してる所も見ました。
なんの気なしに会場を後にしようとしていた俺の後ろで、急にボゴォッという音が鳴りました。
物が破裂したのかと思って小走りに離れてから振り返ると、大人の男の人が、すごい勢いで怒っていました。
その男の人の怒鳴る先に、目にも留らぬ速さでブレる手拳を叩き付ける先に、さっきの男の子の頭がありました。
テストの不正とか金銭などの道徳的な事よりも、俺が印象に残っていたのは。
子供が、とても無力だという事でした。
したくもない勉強、確証も無い将来の成功。
その途上にあるのが千円の金銭収受と、業者テストの点数操作。
それらが、頭をボゴォッされる正当事由になり、日曜が地獄から大地獄へと変わる、子供という身分。
それを棚上げして、悪い事をしたら叱られる法則みたいに扱う当時の世間に、心胆寒からしめる怖さがありました。
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