俺の実家は分譲マンションの3階にありました。
その1階は単身者向けの1Rのフロアでした。
俺が友達と一緒にマンションの裏手のスペースで遊んでた、ある日の事。
そのスペースは本来は駐車場でして、その日に限って、見知らぬクルマが入って来ました。
そのクルマから手荷物をたくさん持って、1階の部屋と駐車場を往復する大柄な男が一人。
俺は好奇心でその男を眺めていたら、いつしかそいつはその奇妙な作業中、横目で俺を睨みながら通るようになりました。
その男は、物がたくさん入った袋を両手に提げて、尚且つ、まるで徒競走のような速度で、1階の外廊下を走ります。
俺たちは何だか怖くなり、その場に居ない他の友達の親がマンションの表の道路を通り掛るのを待ち、事情を話そうとしました。
その間、なぜかその男はマンションの表玄関へ廻り、俺たちの様子を伺っていました。
勿論というか、俺の方を横目で睨みました。
その場に居た友達が、いつもの同じ時間に、いつものように道の向こうから歩いて来る、お目当ての大人に大声で呼びかけました。
すると、問題の男は走り去り、事情を話す俺たちの後ろを、あの大きいクルマで走り去りました。
その翌月の放課後。
なにげなくオヤツ(ピザポテト)を齧っていた俺は、母から、その日の昼間に警察が来ていた事を知らされました。
警察の用事は、マンション各戸への巡回連絡のようなものでした。
更にその翌年。
新聞の地方面で、ヤクザの遺体隠匿事件が、俺の住んでるマンションで起きていた旨の記事を見掛けました。
被害者の女性の存在を、俺は然程に怖く思いませんでした。
それよりも怖い事があったからです。
俺は当時、空き家の探検の面白さに目覚めていた時期です。
自転車で隣の校区まで行き、空き家を漁った事もありました。
そして問題の1Rはずっと人の気配がなく、大人たちに不審がられていました。
あの男が不審な挙動をしなけば、或いはあの男が来る時間帯が少し違ったならば。
俺は、あの1Rにちょっかいを出したでしょう。
腐った女の遺体との対面も然る事ながら。
あの男と遺体隠匿現場の密室で遭遇していたなら。
それを思えば、見た事もない幽霊の怖さより先に、
「助かった、ラッキぃぃぃぃいい」
という思いが込み上げます。
これは俺にしか分からないでしょうけど、皆さんは共感してくれますか?。
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