今から10年ぐらい前。
俺と友人のA、BでK県の某神社の後ろにある山に夜中登った。
この山って、ぶっちゃけ言うと何の曰くもない山で、その上に中学校があって、その中学校に続く道が一本あるだけなんだけど、明かりとかも一切なくて、夜中になると本当に真っ暗。
雰囲気がめっちゃ不気味で、そのおかげで
「自殺が多い」
だの
「女の幽霊が出る」
だの言われて、曰くつきの心霊スポット扱いになってた。
話のきっかけとかは覚えてないけど、
「夜中に登ってみようぜ!」
って話になって、懐中電灯片手に登ることになった。
曰くとかそういうのがないって分かってても、懐中電灯と月明かり以外ほとんど光のない山道に、内心結構ビビってた。
それでも、登りながら
「彼女連れてくればよかったー」
「お前彼女いねーだろw」
みたいな馬鹿な話しながらゆっくり登った。
暗くてどれくらい登ったのか分かんないけど、途中でBが
「あれ?今なんかいなかった?」
とか言い出した。
俺は周囲を見渡したけど何もなくて、
「お前冗談はよせよw」
って言って、Bも
「気のせいかな?」
って首を傾げてた。
そしたら、俺らの後ろを歩いてたAが急に
「うわっ!」
って声を上げた。
「どうした?」
って聞いたら、
「今、後ろから誰かに肩を掴まれた!」
って。Aの後ろを照らしても誰もいないけど、Aが嘘を言っている様子もなかった。
3人で顔を見合わせて、変な悪寒を感じて
「帰るか」
って満場一致ですぐに山を降りた。
それから俺とBには何もなかったんだけど、Aの周囲でおかしなことが起こるようになったらしい。
A曰く、部屋のあちこちからラップ音が聞こえたり、風呂に入ってると扉のすりガラスの向こうに人影っぽいのが見えたり、夜中に誰かに起こされたような気がして目を開けると、目の前に黒い霧みたいな何かがあったり。
テンプレみたいな怪奇現象が起きるって言ってた。
3人とも、山でのことが真っ先に頭に思い浮かんで、Aが
「どうしよう、呪われたのかな……」
とか泣きそうな顔で言ってた。
そっから3ヶ月ぐらい、3人ともそれぞれが忙しくなって中々連絡取ったり会ったりすることができなくなった。
その忙しい時期が過ぎて、久々に3人で集まった。
正直、Aのことが心配だったけど、久々に会ったAはケロッとしてた。
俺とBで
「その後心霊現象どうなった?」
って聞いたら、
「あぁ、何か慣れた」
ってあっさり言った。
「はぁ?」
って思ったんだけど、本人曰く
「確かにうるさかったりビックリすることはあるけど、直接何かしてくるわけじゃないから、気にしてもしょうがない。寝てるの邪魔されるのだけは勘弁だけど」
って。
あと、一番信じられなかったのが、
「なんか可愛く思えてきた」
って。
意味が分かんなくて
「何だそりゃ」
って聞くと、
「じゃあ泊っていけよ。毎日ってわけじゃないけど、何回か泊ってたらたぶん見られると思うから」
って。
それで、俺とBはAの家に何日か泊った。
Aの借りてる部屋って、そこそこ家賃が高い代わりに部屋が広くて、3人ぐらいなら余裕で横になれた。
Aの言う通りラップ音は時々聞こえてきて、
「確かにうるさいな」
って思ったんだけど、正直そこまで気になるような音じゃなかった。
風呂入ってたらドアのすりガラスに何か映るってのは怖かったから、さすがに近くの温泉にみんなで行った。
泊り始めて何日かはラップ音ぐらいで他の怪奇現象は起きなかったんだけど、4日ぐらい経ってからそれは起きた。
その日の夜中。
時計は確認してなかったから何時か分かんないけど、夜中にふと目が覚めた。
最初は寝ぼけてたんだけど、ちょっとしてから何かの気配を感じた。
部屋を見渡すと、Aが寝てる辺りがやけに暗い。
というか、黒い。
目を凝らすと、黒いモヤみたいなのがAの横に座ってた。
なぜかは分からないけど、人っぽいのが座ってるなって思った。
それで、その黒いモヤっぽいのが、Aを起こそうとしてるのか、音はしないんだけど腕みたいなのを動かしてた。
「(ノシ`・ω・)ノシ」←こんな感じ。
しばらくするとAが目を覚ましたみたいで、顔を上げてその黒いモヤなのを見て
「うるせぇな」
って言ったら、モヤの動きが止まった。
で、モヤみたいなのがスーッと部屋の隅に移動した。
「あ、落ち込んでる」
って思った。
Aが俺に気付いて、
「アレだよアレ」
って苦笑いしながら部屋の隅に移動した黒いモヤを指さした。
Aが
「なんか可愛く思えてきた」
って意味がちょっと分かった。
で、その後は黒いモヤも気付いたら消えてて、俺もAもいつの間にか寝てて朝になった。
起きてからBにその話したら
「起こしてくれよ!」
って怒られた。
それを見た後はAの怪奇現象とやらが怖くなくなった。
俺もAの部屋で当たり前のようにラップ音は聞くようになったし、3回ぐらい窓の外に部屋を覗き込むような影を見たこともある。
何となく
「Aに構ってほしくて必死なんだろうな」
って思った。
だから、Aに
「構ってやれよ、可哀そうに」
って言ったら、Aは
「ヤダよ。美少女の幽霊ならともかく」
って言った。
偶然かもしれないけど、その時にいつもより大きなラップ音が聞こえた。
俺もBもAの部屋の怪奇現象が気にならなくなって、ラップ音をBGMに麻雀とかテレビゲームとかやってた。
Aを必死に起こそうとする何かはBも見たみたいで、
「幽霊にキュンとする日が来るとは思わなかった」
って言ってた。
「幽霊が映るかも!」
ってことでAの部屋で写真を何回も撮ったんだけど、残念ながら1回も心霊写真は撮れなかった。
それから1年ぐらいするとAの部屋の怪奇現象はなくなった。
「Aが相手をしてくれなさすぎていじけてどっか行っちゃったんだよ」
って俺とBは言った。
AもAで、
「確かに静かになったんだけど、いないといないで寂しいな」
とかしんみり言ってた。
何だかんだで俺達もその怪奇現象に愛着みたいなの持ってたし。
ただ、
「そんなこと言ったら戻ってくるぞ」
って冗談言ったら
「さすがにそれは勘弁」
って言ってたけど。
10年経った今でもA、Bとはよく遊ぶ。
Aはまだその部屋を使ってるけど、それ以来怪奇現象とかは起きてないから、たぶんホントにどっか行っちゃったんだと思う。
結局山にいた何かの正体も、なんでそこにいたのかも、Aの何が気に入ってついてきたのかも謎のままだったけど、俺もAもBも
「面白い体験ができたな」
ってその正体は特に気にしてない。
ただ、そこにいた何かがたまたま危なくないものだったから
「面白い」
で済んだけど、もしもヤバい奴だったら…って考えると怖くなって、それ以来心霊スポットって呼ばれる場所には行かないようにしてる。
曰くがなくても、
「心霊スポット」
って呼ばれるだけでたぶん何かを呼び集めちゃうんだと思う。
だから、由来がどうあれ「心霊スポット」って呼ばれる場所にはあんまり近付かない方がいいって俺は思う。
以上が俺、というかAが体験した不可解な話。
正直言うと、あの謎の存在にはまた会ってみたいとは思う。
俺のところに来るのは勘弁だけど。
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