会社関係の怖い話が盛り上がってるみたいなので、自分もゾッとした話をひとつ。
自分は精密機械を作る会社で働いてるんだが、自分の所属している部署は「企画補助部」という。
業務内容をざっくり説明すると、企画部がプレゼンに使う資料を準備したり、図面や仕様書から重要な部分をピックアップして、後で資料として使えるように纏めたりしてた。
今から3、4年ほど前の金曜日のこと、企画部が新設計の社内プレゼンを行うことになり、その資料を作るよう上司に命じられた。
ただ、その設計構造は、会社がゼロから新規で取り組んでいるものだったため、設計技術部(以下、SG部と略)が作っている図面や仕様書を送って貰わなければ内容が分からない。
プレゼン資料の納期は1週間後で、上司からその旨を伝えられたのが定時間際の午後5時前。
その日は友人達と飯を食う予定があったので定時で帰りたかったが、本格的な作成は来週から頑張るとして、今日は会社の共有フォルダに関連資料を入れておくことをSG部に伝えておけば問題ないと判断した。
まぁ10分ほどでサクッと終わらせて帰るつもりだった(企画補助部は原則として残業禁止だった)。
件の設計の担当者を調べたところ、とある報告書に三谷という手書きのサインがあった。
SG部の人とはそれなりにやり取りしていたが、三谷は初めて目にする名前だった。
この「ミツヤ」という人物は、おそらく新人か別部署から異動してきたのだろう。
いきなりメールで連絡するのは気が引けるので、先に電話で要件を伝えることにした。
SG部の内線に電話をかけたところ、男の人が応対した。
さすがに会社のメインを張る部署だけあってまだ大勢の人が残業しているらしく、沢山の人の話し声が通話先から聞こえてきた。
応対相手は年齢は若そうだが声は曇っていて覇気がなく、周りの騒々しさに比べて聞き取りにくい。
「すいませんが、ミツヤさんはいらっしゃいますか?」
と問いかけた。
電話に出た相手は
「ミツヤ?うちの部署にはそんな人はいませんね」
と言った。
思わず
「あれ?」
となったが、いない人にかけてもしょうがないので、
「また折り返し電話します」
と伝えて電話を切った。
切った後で、もしかしてこれ「ミツヤ」ではなく「ミタニ」と読むのではないか?と思った。
本当は正しい読み方を知っている人がいないか確認したかったが、上司を含む企画補助部の事務所のメンバーは皆定時で帰ってしまっていて、自分以外は誰もいなかった。
さっさと友人達との飯に行きたいし、悠長に調べている時間も勿体無いしで、「ミタニ」であるという可能性に賭けて、仕方なく電話を掛け直した。
すると声質からしてさっきと同一の人物が応対した。
「度々すいませんが、ミタニさんはいらっしゃいますか?」
と聞いた。
だが相手の人物は
「いえ、ミタニさんという人はうちの部署にはいません」
とそっけなく返された。
自分は面食らった。
「ミツヤ」
でも
「ミタニ」
でも無い?じゃあ何と読むのだろうか?
自分はWebツールにアクセスして会社の全社員の名前を検索した。
すると三谷が一つだけヒットした。
でもこのツールは欠点があり、社員の名前は表示しても読み仮名までは書いてなかった。
ただ、五十音順で並び替えたところ、三谷は三瓶(サンベ)という名前の一つ前に移動した。
この三瓶さんは、海外工場の主任をやってる気のいいおっちゃんで、仕事のことでちょくちょくやり取りをしたことがあった。
これにより、三谷の読み方は
「サンタニ」
であることが確定した。
ついでに調べると、
「ミツヤ」
「ミタニ」
という苗字の社員は1人もいなかった。
三度電話をかける。
電話に出たのは先の二つと同じ人物だった。
今度はやや堂々と
「サンタ二さんはいらっしゃいますか?」
と聞いたところ、驚いた。
「はい、私ですが」
と答えたのは応対した正にその人物だった。
この人物は、要件が自分にあることを自覚していながら、相手が苗字を読み間違えるのを修正することもなく電話を切り上げていたのだ。
「サンタニ」
という読みは勿論、
「三谷」
と書く苗字が社内に1人しかいないことはWebツールで調べて分かっている。
普通、サンタニなんていうマイナーな読み方してたらミタニやミツヤと間違えられることぐらい人生で何度も経験してるだろうし、仕事の内線で自分の苗字を読み間違えられたら
「これ正しくは〇〇と読むんですよ」
と修正しつつ
「何か御用ですか?」
と話を切り出してきてくれるモノだろう。
こっちは友人達との晩飯を控えて早く帰りたいのに、自分への要件をスルーしようとする無気力な行動にイラっときた。
本来の要件だった新設計の関連資料を指定の共有フォルダに入れておくように伝えると、
「あぁ、ハイ。わかんました」
と気怠そうなテンションで答えた。
その態度に余計に腹が立った。
とりあえずエビデンスとしてメールも送信したが、文体をちょっと上から目線な感じで書いてやった。
(「あなたの担当している図面は会議の資料に必須です。本日中に忘れずにフォルダに入れておくようお願いします。」みたいな感じ)
こういう労働者としての自覚が薄いヤツと共同で仕事をするのが、社会人としてはある意味一番の恐怖だと思う。
サンタニはこの件から半年ほどして会社を辞めてしまったので、今はどうなっているか分からないが、おそらく再就職先でもやる気の無い態度でお荷物扱いされてるのではないか、と思っている。
※人名は全て仮名です。
三谷(サンタニ)も仮名ですが、実際はミタニorミツヤに相当する間違った読み方がもっと直感的で
「こんなの初見じゃ絶対読み間違えるだろ」
というような苗字です。
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