16才の頃、腕を骨折して入院してたときの話
朝、看護士さんがお茶を入れに来てくれる
自分で用意した小さめのヤカンになみなみと注いでくれるので、次の日の朝まで足りなくなることはなかった
夜中の2時頃だったかな、ノドが乾いて目が覚めた自分は、枕もとの明かりも点けずに手探りでヤカンを探し当てた
重さからしてまだ半分近くお茶は残ってたよ、看護士さんサンキュー
ものすごく喉が渇いてた自分は、ラッパ飲みで直接ヤカンからお茶をイッキ飲みした
沁みるほどおいしいと思ったね、その時は
わずかに残ったお茶がヤカンの中で揺れる感覚を右手に感じながら、手探りで元の位置に戻した
乾きが癒えた満足感に包まれながら、さあもう一度寝ようと横になった時だったよ
口の中に何か小さな枝のようなものがある
茶柱に決まってるじゃないか、今お茶を飲んだところなんだから、茶柱…
舌の先にあるその小さな枝のような物を、右手の人差し指と親指で摘んで口から取り出した
ギプスのせいで動きにくい上半身をひねって、枕もとの照明のスイッチを右手の薬指を使ってなんとか押し込んだ
スポットライトから伸びる黄色味がかった光の下に右手をもっていく
それは小さな甲殻類の、そう、まるでエビの足のように見えた、が、黒かった
スポットライトからこぼれた明かりで、小さなヤカンが鈍く光ってた
そのまま眠ることも出来たはずだった
だがしかし若すぎた自分は、ほんの少しの不安に囚われて、それが何かを確かめようとしてしまったんだ
それが何なのかすでにおおよその見当はついていたと思う
この悪い予感は的中するだろうと思ってた
いや、逆に最悪の結果を想定しておくことによって、精神的ダメージを少しでも減らそうとしていたのかも知れない
「これは小さなGの足に違いないが、先ず確認してから次の行動を決めよう」
「むしろこんなに小さな奴で幸運だったかもしれぬ」
あの時の自分は若すぎた
直径12センチほどのヤカンの中には、わずかに残ったお茶と、その水面をビッシリと覆い尽くす数種類の小さなG達
体長5ミリから15ミリぐらいの奴が、恐らく100匹近く浮かんでた
この事実によって更にいくつかの重大な疑問が提起されたけど、その時の自分に出来たのはナースコールのボタンを連打してトイレに駆け込むことだけだった
若いって素晴らしいことばかりじゃないんだね
ヽ(ヽ゚ロ゚)ヒイィィィ!