奈良にある、そこそこ有名な古刹での話。
そこの住職は87歳で老衰で亡くなりましたが、病院に行くわけでもなく、死去する前日まで朝夕の勤行をしていたそうです。
で、夕べの読経が終わった後、一番弟子の副住職を呼び、
「わしは明日逝くことになった。
これまでにすべての準備はしてきたから、何も心配することはないのだが、
一つだけ、庫裏にある糠漬けを別の容器に移し替えておいてくれ。
説得したんだが、どうしてもわしと一緒に逝くと言ってきかないんだ」
こう言ったそうです。
副住職はわけがわからないながらも、言いつけられたとおり、粥とともに出す糠漬けを別のポリバケツに移しておきました。
はたして翌日の昼、自室で正座していた住職はコロリと横に倒れ、大往生をとげたんです。
まず医者を呼び老衰の死亡診断を得た後、葬儀の準備が始まりましたが、副住職は前日の老師の言葉が気になり、
糠漬けのあった土間に行ってみると、昨日まで漬物を入れていた年代物の瓶が真っ二つに割れて転がっていたそうです。
そこで副住職は、ああ一緒に逝くと言ってたのはこれのことなんだと、わかったということでした。
なかなか不可思議な話で、瓶にも霊魂があるものなのか、老師には瓶の気持ちがわかったのか。
そのお寺の宗派の教義は、どちらかいうと霊魂には否定的なんですが。
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