会社の帰り道、偶然、高校生時代からの友人Kと2年ぶりに出会った。
俺達は再会を喜び、飲み屋に直行して旧交を温めた。
その時はお互いにはしゃいだのだが、Kは心の底から楽しんでいる風が無い。
俺は「心配ごとがあったら遠慮なく電話しろよ」と伝えた。
その三日後、Kから電話があった。
K『あのさ、お前に愚痴っても迷惑と思うけど、ちょっと悩んでる事があるんだよ』
俺「なんだよ、遠慮なく言えって」
K『実は、下の階に住んでるBって女から、凄い嫌がらせを受けてるんだよ』
俺「えっ、ストーカーww、お前そんなにイケ面だったか?」
と茶化した俺であったが、Kの話を聞くと洒落にならない悩みである事が解った。
Kの両親は名のある資産家で、Kは両親の買ってもらったマンションに住んでいるのだが、その階下の住人B(女、30前後で独身)より、一年前から嫌がらせを受けている。
始まりは、Kが友達を呼んで、大騒ぎした日の事。
友達が帰った後、下から、どん!どん!どん!と、天井を叩く音が30分以上した。
Kもうるさくした後ろめたさがあったから、黙ってたが、その日より嫌がらせが始まったのだった。
Kが受けたと言う嫌がらせ
・エレベーターに乗ると、Bも乗ってきた。Bが聞き取れないくらいの小声で何かいい始めた。聞き耳を立てると、
「臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い」
・マンションの住人達が、Kを見て顔をしかめている。
その輪にはBがいて、どうやらBがあること無いこと吹き込んでいるらしい。
・無言電話が一日中かかって来て、Kが切れてとどなったら、
電話口より『死ねウジ虫、地獄に堕ちろ』と、女の声が聞こえてきた。
・ポストに投函された手紙の類が、最近は全て開封されている。
・夜中の3時頃、毎日ピンポンピンポンピンポンとチャイムを鳴らされる。
・Kが外出すると、いつも監視されているような気配を感じる。
・ポストに爪と髪の毛が入っていた。
・Kがエロビを見てたら電話があり、『そんなにレズが好きなの?』(盗聴?)。
・宅急便が届いたので開けると、中には気味の悪いお札が数百枚入ってた。
・新聞入れから玄関の中に、使用済みで血にまみれた生理用品を大量にぶちまけられた。
俺は、頭がくらくらしてきた。
俺「気持ち悪りいな。そのBって女どんな奴なんだ」
Kによると、Bはよくよく見ると少し綺麗な顔立ちであるが、一目でキチガイと解る。
まず目が虚で、どこにも焦点があってない。
また、いつもにやにやとしている気味の悪い口元。
化粧っ化もまったくなくて、頭もぼさぼさ。
今時どこで売っているのだと言うのか、ださくてレンズの大きい黒縁眼鏡をかけてる。
その癖、吐き気がする位に香水の匂いが強烈だ。
K『お前も一度見ればびっくりするぞ。気味が悪くてな』
俺「吐き気がしそうだよ。ところでお前、警察には連絡したのか」
K『警察は犯罪が起きるまで動いてくれねーよ』
俺「ホントか?警察って何なんだ、税金泥棒じゃねーか」
その後、Kより何度か相談を受けていたのだが、ある日、興奮したKより電話を受けた。
K『やべえよ!俺もうだめかも、俺は殺されちまうかも知れない』
俺「落ち付け、冷静に話してみろ」
K『夜中にさあ、ベランダからきいきいきいってさあ、ガラスを爪でひっかく音がするんだよ。 何だと思ってベランダ見たらさあ、あの女がいたんだ。玄関から武器のバットを持ってきたら消えてた』
俺「馬鹿な、お前の家9階だろ。見間違いじゃないのか」
K『あの女に間違いない。あの女の強烈な香水の匂いがしたんだ。8階からよじ登ってきたんだあの女』
俺「警察呼んだか」
K「勿論呼んだよ!それで、ベランダの指紋を取ってったり、あの女から事情聴取したらしいけどさあ、 警察なんて言ったと思う』
Kは怒って、声がぶるぶる震えながら言った。
K『証拠がありません。以後、この様な電話をしたら、あなたを逮捕します』
俺は怒りに震えた。
無能な警察が!もしKが殺されたらどうするんだ?
いつも警察は保身ばかり考えて動かない。
動いたとしても、それはKが殺されたとき初めて動くのだ。
俺はベランダを含む部屋中に、監視カメラや警報装置を設置する様、Kに助言した。
Kの事が心配になった俺は、次の日、友人のSへ相談があるといって飲みに誘った。
Sは大学時代から友人で、同じ部活の仲間だったのだ。
もっとも、部活は同じでも、俺は教育学部のボンクラ、Sは医学部のエリートである。
俺はKが殺されるのではないかと思い、一つの事を聞いてみた。
俺「なあ、精神障害者っていうのかな、そういう奴等が犯罪を犯しても、刑法で裁けない事があるんだろ」
S「そうだな、刑法39条で『心神薄弱者ノ行為はコレヲ罰セズ、心神耗弱者ノ行為ハソノ刑ヲ減刑ス』とあって、実際、不起訴になる事は意外にも相当多い」
俺はぞっとした。
Kは殺されるかも知れない。
しかも、犯人は不起訴になり、法の裁きを逃れ得るかもしれないのだ。
こんな理不尽が許されるのだろうか?
俺「くそっ、信じられん。警察も無能だ。殺されてからじゃ遅いんだよ!」
S「えっ、どうしたんだ、話してみろよ」
俺は今までKから聞いた話をSに伝えた。
俺「このBって女、なんて言うのかな、いわゆる統合失調症って奴だろ」
S「ふーん、Kの言う事が本当だとすると、明らかにBは統合失調症だな」
Sによると、脅迫観念に駆られた様に、一つの事に異常なまでにこだわる性質、常軌を逸した支離滅裂な行動、これらから判断すると、明らかにBは統合失調症だと言う。
S「ただ、一つ気になる事があってな」
とSは言った。
S「お前の友達のKは、常に隣人のBに嫌がらせを受け、監視され続けていると言うのだろう」
俺「うん」
S「それって、典型的な統合失調症患者が言うセリフなんだよね」
今日もKから電話があった。
K『驚いた事があったんだ!今日、家を調べていたら、盗聴器が150個も見つかった!それから、信じられない事が解った。Bの奴、俺が3歳の頃から、ずっとずっと俺の事を監視し続けていたんだ!』
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