社会人ドロップアウトして、1年ぐらいブラブラしてたんだけど、何かしなきゃと思い、いい年こいてコンビニバイトなんて始めたのさ。
「将来自分でコンビニをしてみたくて、勉強させていただきたい」的な事面接で言ったもんだから、そこのオーナーが真に受けて、俺を深夜店長で雇ってくれた。
で、嘘から出た真というか、それなりに真面目にやってたんだよ。
うちの店はDQNの溜まり場として有名で、俺は自分がシフトに入ってない時は、近隣のコンビニも含めて見回りするのが仕事みたいになってた。
夏休みが近くなればなおさらね。
いつもは警察やPTAの団体と一緒に行ったりするもんだけど、その日は小雨が降ってたんで、俺一人でタバコ買いに行くついでに、傘さしてテクテク歩いて行ったんだ。
で、その帰りなんだけど、歩行者用と二車線に区切られてる地下道?みたいなところがあって、そこの歩行者用の中腹ぐらいに、3つほど袋が置いてあるのが見えた。
落し物か?と思い近づいて中身を見たら、CMでやってるようなギフト用のハム、少し高級そうなブドウ、ユニクロの袋に新品のジーパンとノースリーブ、後、固く丸結びされた中身不明の無地のビニール袋。
誰かが何かの事情で、後で取りに来るつもりで一時的に置いたのか、落し物というには不自然すぎるし、捨ててあるにしてもなんだかなぁ…という感じだった。
食材も入ってる上に、雨に濡れないようにか、わざわざ地下道の中腹にまとめて置いてある。
腐ってる訳でも無いし、ゴミという感じじゃない。
で、警察に持っていくのも面倒臭いし、深夜だし…ほっときゃいいんだけど、元々ロクな人間じゃない+拾い癖のあった俺は、ユニクロの袋だけパクって持って帰った。
家に帰って改めて中身を見ると、ハーフジーンズにピンクのノースリーブ。
どちらも女性用でSサイズ。
こりゃとてもじゃ無いけど着れねぇ…捨てようかと思ったけど、あぁ、そうだ母ちゃんにでもやろうと思い、自分の部屋に置いといた。
しばらくして母ちゃんから、件の地下道で痴漢があったっていう事件を聞いた。
正直フーンて感じで、その地下道は昔からよく痴漢が出るし、夏休み近いしで、いつもの事ぐらいに思ってた。
その日、深夜出勤だった俺は寝てたんだけどさ、昼頃携帯が鳴った。
「もしもし?」
『もしもし?○○君!?昼店長です!!』
昼店長というのはオーナーの奥さんの事で、お昼に入ってる人だった。
「あー、ハイ。どうかしました?またDQNが店のガラス割ったとか?」
『違うの、大変な事になってるのよ!店が!とにかく今すぐ来てちょうだい!!』
何事かと思い駆けつけると、お昼のラッシュでごった返してるはずの店が静まりかえっている。
店の前には主婦のパートさんが一人。
「おはようございます、どうしたんですか?」
「あ、深夜店長。私よくわからないんですけど、さっき急に警察が来て…私は店の前で、『お客さんが来たら、諸事情により今日はやってませんて伝えなさい』って昼店長に言われて」
「はぁ…わかりました。とにかくお願いしますね」
事務所に入ると唖然とした、明らかにパニクってる昼店長と、オーナーを取り囲む警察。
「お宅さんは?関係者!?」
若めの警官に強めに聞かれる。
「あ…ここの深夜店長です」
「あ!?○○君!!」
ふいにもう一人の警官に声を掛けられた。
この人はいつも一緒に見回りをしている人だった。
「どうしたんすか!?これ?何があったんですか?」
「いや、それが…」
「うちは未成年に酒、タバコの販売は絶対してませんよ!!知ってるでしょ!?」
「いや…そっちじゃないんだよ…」
「え…じゃぁ」
そんな事してるうちに、制服を着ていない警官とおぼしき連中の指示で、昼店長を含む俺達は外に出された。
何を聞いても泣き崩れてる昼店長を尻目に、しばらくしてオーナーはパトカーに乗せられて姿を消した。
2~3日して、警察から連絡を受けた俺は地元の署にいた。
「なんですか?てか何があったんすか?店も開けないし…」
「お待たせしたね。あのー…あそこの地下道しってる?」
「ああ、はい。なんか最近も痴漢が出たって」
「それ、それ…言いにくいんだけどさ。その事件の…犯人が、お宅さんとこのオーナーだったのよ」
「はぁ!?いやいや!!」
「いや、まぁ落ち着きぃな…それで何か知ってることとか、変わった事とか何か」
「……マジっすか…あ、そういえば」
ここで、件の地下道での一件を思い出した俺。
「そういえばね、あそこの地下道で落し物…というか変なものが」
そこから俺は、ユニクロの袋をパクった事を伏せて、洗いざらい警察に報告した。
少し俺も疑われたが、犯人が全て自供しているという事で、俺はすぐに解放された。
それから1ヶ月間ほどは、本部の人間が来て店は通常通り営業したが、ほどなく閉店。
後で聞いた話しだが、うちのオーナーは俺があの落し物を発見したその日、あの地下道で主婦を車で拉致、車内で強姦して、主婦を遠く離れた所に置き去り逃走。
ふらふら歩く被害者の姿を目撃した近隣住民が110番→保護されて事件発覚。
何が一番怖かったって、その被害者の主婦さ、うちのコンビニでパートとして雇ってた事があるんだよ…
俺、その人が買った服パクったのかと思うと恐くなって、母ちゃんに内緒でその服捨てた。
二度と物は拾わないって神に誓ったよ。
生きてる人間がなんとやら…で、まさか身近な所でこんな事が起こるなんて思ってなかった、俺はガクブルもんだったよ。
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