俺が4歳か5歳ぐらいのときの話だけど… そのころ俺は夕方になると買ってもらったばっかりの補助輪付き自転車で散歩に出かけるのが日課だった。
お気に入りの公園や友達の家の前を一通り回って帰って来るだけの20分ぐらいのお散歩。
コースはいつも一緒だった。
その帰り道。
大きな交差点を過ぎて少し行ったところ、俺の家まであと3分ぐらいのところに一軒の大きな家があった。
その家のガレージの前に、いつも何かを探してるように下を向いて立っている女の人がいたんだ。閉まっているガレージのシャッターの前に。
俺はその家の建っている方とは反対側の歩道をキコキコ走って家に帰るので顔とかは見えないんだけど、赤い上着にグレーのスカートを履いた髪の長い女の人だったのを覚えている。
毎日必ずその女の人がガレージの前にいるので
「なにをしてるんだろー」
とは思っていたが道路を渡って反対側まで行くのもめんどくさく、俺はただその女の人を見ながら家に帰るだけだった。
それからしばらくしたある日。
いつものようにその家の前を通ると、ガレージの前に人だかりが出来ていた。
「なんだろ?」
と思いながらいつもよりもゆっくりと自転車を漕ぎながらその家の前を通り過ぎ家に帰った。
シャッターの開いたガレージの前に集まる人だかりの中にあの女の人はいなかった。
それ以後、あの女のひとを見かけることはなくなった。
俺はまたシャッターの閉まったままのガレージを見て
「あの女の人どこいったんだろ?」
と思いながら毎日家に帰った。
疑問に思っていた俺は、ある日母親に聞いてみることにした。
「ねぇ、僕がお散歩から帰ってくる道、交差点を過ぎたとこあたりに大きなお家があるでしょ?」
「あそこの車をいれるトコの前にいっつも女の人が立ってたよねー。どこいっちゃったの?」
そう言った瞬間に母親の顔色がいきなり変わった。
いきなり俺の両肩をつかみ、怒ったような口調で俺に問い掛ける。
「あんた見たの!あの家の前で女の人見たの!」
予想外の展開に俺は泣きそうになった。
まさかこんなことを聞いたぐらいで怒られるとは思わなかったからだ。
母親の怒号はさらに続いた。
「あんたその人幽霊なんだよ!交差点で事故にあった女の人!」
俺は
「はぁ?」
と思った。
話がまったく見えない。
なんで交差点で事故にあった人の幽霊が離れた家のガレージの前に出るのか理由がわからない。
「その女の人ね、目を探してたの!右目!亡くなったときに調べたら右目が無かったの!」
「事故のときに飛んじゃったんだって!それがあのお家のガレージの中にあったんだって。どうしてかはお母さんもわからないけど…」
やや落ち着いて口調も普通になってきた母親に俺は再び質問した。
「なんであのお家に目があるってわかったの?」
再び母親の怒号が家に響く。
「あんた以外にも見てる人がいっぱいいるの!親切なおじさんが毎日いるんでおかしいな?と思って女の人に話し掛けたんだって!」
「そしたら女の人が振り返って言ったんだって『・・・眼を探してるんです。わたしの右目・・・知ってますか?』って!」
そこから先は聞かなくてもわかった。
振り向いた女の人に右目がなかったであろうことも。
その日を最後に俺は散歩に出ることをやめた・・・。
貴女が落としたのはこの金の眼ですか?
ポポプラジル
ばけらった
そのガレージの家の車の持ち主が犯人?